#entry-93 リノベーション 郷麓温泉

民宿から情緒ある趣を感じられる旅館へとリノベーション

お客さまに非日常のときを提供する趣ある温泉旅館に改装してほしい…

先代より温泉宿を継承することになった「郷麓温泉」の女将さんより、「お家みたいな空間ではなく、遠路はるばる訪れるお客さまが非日常のときを過ごしてもらえるような趣のある空間にしたい」との相談を受け、温泉旅館のリノベーションはスタートしました。



民家の雰囲気から、檜造りの温泉へ

女将さんの言葉通り、浴室は家庭的なバスタブとタイルを使った2種類の浴槽からなる非日常感のない雰囲気でした。しかし、構造を大きく変えるとなれば、多額の費用がかかります。そのため、現状の良いところを残しつつ、非日常感を演出できる手立てを考えました。

また、できる限り費用を抑えるため、比較的手に入れやすい木材である「檜の赤身」使用することを提案させていただきました。

「檜の赤身」でコストカットを実現!

高級木材を使えば膨張したり、乾燥して縮んだりすることが少なく安定した浴槽に仕上がりますが、コストは10倍に跳ね上がります。代わりに、年輪の中央部分でしかとれない「赤身」を使用することで、①水に強く ②腐りにくく ③カビが生えづらく ④檜特有の香りが強い、浴室に必要な条件をクリア!

木材は地元の業者さんより吟味をし調達、何度も水を入れて試験を繰り返し、木の特徴をふまえて木の皮を詰めたり補強をしたり、手間をかけ入念に施工をほどこしました。その結果、高価な木材に頼らずとも、安定感のある仕上がりに。

また、照明も電球はそのままに、檜の端材を使ってひと工夫。一見、重くて使い勝手が悪いようにも感じる昔流の蓋をあえてデザインに採用し、檜が本来持つアルファー波やヒーリング効果が「郷麓温泉」の良泉と相まって、極上の癒し空間へと生まれ変わりました。


温泉旅館の顔となる玄関にも檜をあしらって


「郷麓温泉」のリノベーションで最も苦労したのが、玄関の施工でした。従来のスタイルは、標高の高い山麓には適さない材質と施工方法で、木造の外壁は内部が腐って、いつ倒壊しても不思議ではない状態。また、デザイン的にも、温泉旅館の顔となる玄関に落ち着きや一体感がなく、お客さまの出迎えに必要な、来館時の「ワクワク感」と、退館時の「名残惜しさ」を演出しようと提案させていただきました。


現存の条件が厳しく、デザインするのに苦戦

新たなものを一からデザインするのは簡単ですが、今ある条件のなかでデザインするのは状況により困難を極めます。今回もその例に漏れず、玄関からつながる屋根の高さを考慮して、決して出しゃばらず趣に似合った玄関をデザインするにはどうすればいいのか…、工法を決定するまでに一苦労。

そして、試行錯誤重ねた結果取り入れたのが、「組子」の技術。デザイン性はもちろん、組子特有の強度を生かして筋交の役割も持たした一石二鳥の工法により、温泉旅館にふさわしいエントランスが完成しました!

武家屋敷に使う「本吹き瓦」を採用

屋根部分は「瓦造りの屋根が好き」と話していた女将さんの言葉を思い出し、住宅などに使われる鉄板屋根(ガルバニウム)に、武家屋敷の屋根などに使う「本吹き瓦」の施工方法をアクセントとして取り入れて、庇(ひさし)がお客様を出迎える趣あるゲートへ。


足元は、もともとあった黒タイルの雰囲気を生かしつつも、左官さんに石貼り依頼。室内ならタイルでいいですが、大自然の中にはやはり自然の素材が似合います。


昭和の時代の大広間をドミトリースタイルに改修


客室も何室かリノベーションを手掛けましたが、一番大掛かりだったのが、大広間から客室への改装工事でした。「使用していない15畳ほどの大広間を客室にしてほしい」というオーダーでしたので、どうやってあの空間を有効的に客室にするか、ワクワクするような空間造りはできないものか、和風の大広間のイメージを崩すにはどうしたらいいか…。知恵を捻り出した結果、たどり着いたのが、室内にいながらもアウトドア感を醸し出すドミトリールーム!



プライベート空間とワクワク感の共存

15畳の空間に、県産木材を使った箱型のベッドルームを4台施工。ベッドと窓の間には空間を残し、小さなテーブルとソファーを設置。家族旅行やグループ旅行の際に、プライベートな時間を持てるよう考慮した設計で、かつコミュニケーションがはかれるような工夫も施しました。まさに「大人秘密基地」みたいな空間です。

夏は除湿、冬は保湿効果が高い空間に

また、「郷麓温泉」は川沿いにあって非常に湿気の多い環境でしたので、そんな状況下においても快適に過ごせるように、檜や杉などの自然素材を使うことにより湿調性を確保。表面をウレタン塗装で施工した客室にはない、夏は除湿、冬は保湿効果が高く、触り心地も良いあたたかみある空間へと施工させていただきました。



玄関の改装で旅館の高級感がアップ!

玄関のデザインでここまでお客さまの印象が変わるとは…。正直想定以上の出来栄えで、従業員一同、感動しました! 私たち素人では到底思いつかないような「組子」を用いたデザインは、玄関に圧倒的な高級感をもたらしてくれました。さらに、さりげなくあしらった瓦が風情たっぷり♪ 旅館の顔がようやくできたなという感じです。



写真映えするフォトスポットに!


「ゆ暖簾」との相性もバッチリで、ほとんどのお客さまが来館時、退館時に記念撮影をされます。写真映えが非常に良いようで、SNSなどでも多く方に投稿していただき、「私もあんな写真が撮りたい」とコメントをいただくまでに。おかげさまで、とっても気に入っています!


「ファミリールーム」と命名! ファミリーやグループ旅行に大人気!!


大広場からドミトリールームへと改装していただいた空間は、お子連れのファミリーや若者のグループ旅行に好評をいただいており、客室に入った瞬間に歓喜の声が聞こえてくることもしばしば。家族や友達との旅行時でも、就寝時はゆっくりプライベート空間で眠りたい…という旅行者のかゆいところに手が届く間取りになっていると思います。




湿気の少ない快適空間。他の客室とは運伝の差!

天然木を使った空間はこんなに快適なのかと、驚かされております。川沿いという立地のため、特に夏場は蒸し暑く、全客室に除湿機を完備しておりますが、ここだけは除湿いらずの快適空間です。天然木の力ってすごいんですね。


温泉旅館にふさわしい趣ある浴室に

先代から女将業を受け継いだ際、一番最初に「なんとかしなくては」と思ったのが浴室でした。温泉旅館なのに、まるで家庭のお風呂みたいでしたので、限られた予算のなかで天然温泉にふさわしい浴室を造るにはどうすればいいか、幾度も話し合いを重ねました。やっぱり、温泉は流れるところを視覚で楽しみたいですので、デザイン性のみならず構造にも骨を折っていただきました。その結果、目を見張るような変貌を遂げたのです。大自然にマッチするよう考えられた施工は流石です!


オーダーメイドの重箱でお料理を提供

今回はさまざまな改装をお願いしましたが、合わせて作っていただいた「重箱」もとっても重宝しています。料理皿の寸法に合わせてオーダーメイドした使い勝手の良いサイズ感、提供用途に応じて変えられる仕切り、何段にも重ねて収納できる安定感、盛り付けのセンスを問わないデザイン性など、私の中では最高峰の食器! 何より料理を提供した際のお客さまの喜びの声が従業員の励みになっております。


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