#entry-98 リノベーション 岬観光ホテル

室戸岬で唯一生き残った奇跡のホテル


室戸岬を取り巻く
ジオパークの大自然の中へ

今回、ご紹介するのは、室戸岬を取り巻くジオパークの大自然の中で、唯一生き残った奇跡のホテル。周辺には、浜あざみや浜大根、サボテンなどの熱帯植物が生い茂り、その先には一面太平洋が広がる。まさにそこは、南国ムード漂う別天地。一年を通して、お遍路さんや観光客が訪れる、四国の東南端にある「岬観光ホテル」です。

国の天然記念物と国の名勝に
指定された自然保護地区

ホテルの建つ室戸岬は「室戸阿南海岸国定公園」の一部、亜熱帯性樹林と海岸植物群落が「国の天然記念物」、岬全体が「国の名勝」に指定されている自然保護地区にあり、法律によって立木の伐採や工作物の設置などができない場所。そしてそこに建つホテルもまた、所有者であれ手を加えることが許されないという特殊な環境下にありました。

登録有形文化財に指定された
由緒ある建造物

さらにホテルは、本館が昭和9年頃、新館が昭和39年頃に建築され、現在では国の「登録有形文化財」に指定された由緒ある建造物。後世に残していくべき付加価値の高い建造物です。しかし、建物を守るための改装工事をすることが許されず、存続させるのに多くの課題を抱えていました。




地域のためにも
何とかホテルを残したい…

このホテルの所有者である千頭夫妻に出会ったのは、夫妻がちょうど頭を抱えていた頃でした。地域のためにも、何とかホテルを残していきたいと立ち向かう熱い想いを受け取った私たちは、修繕計画をスタート。しかし、建物の工法・材質・色など、全てにおいて変更は許されず、現状維持が鉄則。これは、ただのリフォームでとはわけが違う。建物の価値を残し生かした、まさにリノベーションです。一筋縄ではいきません。


しかし…
そんな状況をよそに、ホテルは太平洋の潮風や台風の影響を真正面から受ける環境下における経年劣化により至る所が悲鳴をあげていました。

外壁に用いられていたのは
雨風の強い高知に昔から伝わる「目板工法」

中でも、旧来の大工仕事が求められたのは「目板工法」を用いた外壁でした。木造の建築物は、木材と木材の継ぎ目が弱点となります。それを補うために木材と木材の継ぎ目を別の木材で補強しながら施工するのが目板工法。これは、雨風の強い高知に昔から伝わる杉の赤みを用いた特殊工法です。新建材を貼って終わりのリフォームとは違い、一枚一枚が大工による手作業で行われます。

伝統工法を施工できる
現場なんて滅多にない!

外壁は全長6m。継ぎ目を最小限に抑え強度を確保するため、縦3m・横20cmの板を縦に2枚、横に数十枚継ぎ接ぎ、木材の継ぎ目に5cm幅の板で補強。大変な作業ではありますが、旧来の工法を施工できる現場なんて滅多にありませんので、やりがいたっぷり。そして何より、歴史ある建物を残そうとする千頭夫妻の想いに貢献できるのが嬉しかった。


なかなか体験できない
スリリングな経験が次々と

他にも、大きな3階建てのホテルを支える鉄筋コンクリートの基礎柱の補強、レッドカーペットが敷き詰められた床下の補修、おきゃくが繰り広げられてきた大広間の耐震、そして浴槽には檜風呂を手造りしました。屋根を修繕するために屋根裏に施工用の扉を付けたり、なかなか体験できないスリリングな経験もあって楽しませてもらいました。

それからというもの、定期的に補修工事に呼んでもらえるようになり、お酒もたくさんご馳走になって、千頭夫妻とは長く濃いお付き合いになりました。今では、高知に台風がくるたびに室戸岬が気になって仕方ないですね。




「ここを存続させたい」
という想いを伝え棟梁に全てを委ねた

私たちがこのホテルを引き継いで数年経った頃でしょうか、いよいよ建物の修繕が必要になり、ご縁があって棟梁に依頼することに。本来はこちらから「こんなふうにしてほしい」とオーダーするべきなのでしょうが、現状の課題と「ここを存続させたい」という想いを伝え、棟梁に全てを委ねました。


文化財保護法と自然保護法
両方の観点から許可が必要

ホテルが建つのは、国定公園の特別区。既存のものに被害を与える外来種は駆除を強いられ、葉っぱ一枚切るのもダメで草刈りにも許可がいる、そんな場所です。周りの木が大きくなって倒れてきて建物が倒壊しそうでも、許可なしに木を切ることはできず、ホテルを守るのは容易ではありません。ホテルは自分たちの所有物でも、自然保護地区にあることから、手を加える場合は文化財保護法と自然保護法、両方の観点から許可を得る必要があるんです。

建物の減築、増築もNG! 
元通りの材料で元通りに直すことしか許されない

建物の減築、増築はもちろん、色すら変えられない。元通りの材料で元通りに直すことだけが許されます。しかし、昭和9年当時の材料なんてないですから、できる限り当時のものに近い材料を使ってもらいながら、棟梁にお願いして直してもらっているところです。外壁も、元々の工法に則って1枚1枚修繕しなくてはなりません。




建物がもつのか、こっちがもつか…
終わりのなき自然との戦い

とにかく、建物がもつのか、こっちがもつか。このホテルを守るということは、終わりのない自然との戦いです。棟梁はそんな事情も汲んだうえで対応してくれますので、いつも「全てお任せ」という感じでオーダーさせてもらっています(笑)


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